社債の買入償還取引について
発行した社債を市場で買い取る場合の処理ですが、あなたが企業の財務担当者となって考えて見ましょう。
たとえば、1口100円の社債を1口97円で10,000口発行し、償還期間が5年としましょう。
つまり、社債という会社の借金をあなたはしたわけですが、社債を発行、つまり、借金をしたときの入金金額は1口97円の10,000口、970,000円であり、5年後に1口100円の10,000口を償還、つまり、返済することになります。
1口97円で買った投資家は、仮にあなたの会社の社債の時価が97円より上昇すれば証券会社を通じて売却することが予想できます。
ということは、あなたも、市場から、自社の社債を購入する、つまり借金を早めに返済することができます。
社債を発行したときは、会社の資金が不足していたのですが、たとえば3年後に、業績が回復し、資金的に余裕が出てきたとき、財務担当のあなたは次のように考えます。
全額10,000口を返済する余裕はないが、半分の5,000口は返済できる。そうすれば、金利(社債利息)を払う必要がなくなる。
しかし、どうせ市場から自社が発行した社債を購入するならより有利な条件、つまりより安く買い取ることが必要である。
ここの「より安く買えれば」という言葉に着目してください。たとえば、今、市場の時価が1口98.5円であれば、その金額で買えば、安く買ったことになるかです。
これは何に対して1口98.5円が安いか高いかです。
そこで財務担当者のあなたは、この社債について考えます。
まず、最初に発行したときは、額面100円(償還時に返済する金額)に対して97円でしか発行できなかったのは、当社の社債の価値が97円であったからに他ならない。
そして、5年後の償還時には、額面の100円で返済するのは、97円の価値が、計算上、100円になるからである。
そこで、この計算上の価値を算定する必要があると財務担当のあなたは考えます。
実は、この100円と95円との差額が、「社債発行差金」です。そして、社債の計算上の価値は、額面から社債発行差金残高を控除した金額になります。
ですから、最初の価値は、100円−3円=97円となり、償還時の価値は、100円−0円(償還時には社債発行差金の残はゼロになる)=100円になります。
そこで、今、5,000口を市場から買入して償還する場合、そのときの計算上の価値を算定して、その金額と市場の時価とを比較して安い、高いかを判断することになります。
3年後の計算上の価値、すなわち、額面から社債発行差金残高を控除した金額はいくらになるでしょうか。
社債発行差金は、償還期間内で月割で償却されます。
買入償還日が、社債発行日から36ヶ月(まる3年)経過しているとした場合の5,000口の社債発行差金の残高を計算してみましょう。
1口当たり3円が社債発行差金ですから、5,000口であれば、15,000円が社債発行差金の最初の金額になります。15,000円が5年間、つまり60ヶ月間で償却されますので1ヶ月あたりの償却金額は15,000円÷60ヶ月=250となります。
そして、36ヶ月経過後の社債発行差金の残高は次のように計算できます。
残り24ヶ月であるから、250円×24=6,000円と計算することもできます。
また、36ヶ月間償却をしたため、既償却額が250円×36=9,000円となり、最初の社債発行差金15,000-9,000=6,000と計算することもできます。
こういった内容が理解できれば社債の問題は次のような図を書くことでどのような問題も簡単に解くことができます。
図を書く場合のポイントは次のとおりです。
@決算日と利払日 決算日と利払日が異なる場合には、未払社債利息が発生します。
A発行日
B買入償還の有無
買入償還がある場合は、買入償還分とそれ以外を区別して図に描きます。
先ほどの取引を図で表してみます。
次の図解の取引を想定してみましょう。
作問者はここからスタートします。
償還分とそれ以外に分けることが大切です。
この図を見て、買入償還前の社債及び社債発行差金の金額がすぐにわかるようになっておく必要があります。
社債の金額は500,000円、そして社債発行差金の金額は、18,000円となります。つまり、@とAの合計です。なぜなら、当期の償却は実施していませんし、買入償還の処理も行っていないからです。
500,000円分を@98.5円で買入償還したらどうなるでしょうか。買入償還時の計算上の価値は、500,000円−6,000円=494,000円となります。この金額を5,000口で割りますと@98.8円となります。つまり、@98.8円の社債を@98.5円で買うわけですから、1口当たり0.3円安く買えたことになります。つまり、償還益が、1口0.3円×5,000口1=1,500円となります。
これを仕訳で表現すればいいわけです。
(借方) 社債 500,000 (貸方) 社債発行差金 6,000
当座預金 492,500(※)
社債償還益 1,500
(※)1口98.5円×5,000口=492,500円
500,000円×0.985=492,500
次の図解の取引を想定してみましょう。
利払日を▽で表します。
社債発行総額1,000,000円。発行価額1口97円。償還期間5年。利率年1.2%。
当期は平成17年1月1日から12月31日。
当期の10月31日に、400,000円の社債を1口98円で購入。仮払処理済み。買入時に10/1から10/31の利息400円も支払っているが仮払処理。
上記の資料から次の図が描けるかが大切です。この図にすべての情報を書き記せば、どのような問題でも対処できます。
ここから、決算整理前の金額を算定してみましょう。
社債 1,000,000円 社債の償還の際、仮払金で処理しているので、社債の金額は発行時の金額のままのはずです。
仮払金 392,400円 400,000円×0.98または1口98円×4,000口と利息400円の合計
社債発行差金 19,500円
社債発行差金の整理前の金額は、買入償還の処理も当期の償却も終わっていないので、期首の残になります。
社債利息 9,000円 利息は、17/9/30まで支払っているはずですから、9か月分が計上されているはずです。1,000,000円×1.2%×9/12
これは、17/3/31に半年分の利息6,000円を支払い、17/9/30に半年分の利息6,000円を支払っていますが、当期首に前期末において計上した未払社債利息(16/10/1から16/12/31分の利息 1,000,000円×1.2%×3/12=3,000円)について再振替仕訳をしているはずですから、決算整理前の社債利息の金額は9,000円になります。
図を描けば次の処理は簡単です。
ただ、社債発行差金の当期の残高の検証はしておきましょう。
当期の残高は8,100円ですが、償還日まであと27ヶ月ありますから、18,000円×27/60=8,100円で検算しておく必要があります。
ちなみに、期首の社債発行差金の残高は、償還日まで39ヶ月ありますから、18,000円×39/60と12,000円×39/60の合計となっていればいいことになります。
買入償還の処理
400,000円の社債、つまり1口100円の社債4,000口を17/10/31に1口98円で買入償還していますが、このときの計算上の価値は、400,000円−5,800円=394,200円となっています。つまり、1口当たり98.55円ということです。(394,200円÷4,000口)
ですから、98.55円の社債を98円で購入したことになり、1口当たり0.55円得をしましたので社債償還益として2,200円が計上されます。
(借方) 社債 400,000 (貸方) 仮払金 392,400
社債償還益 2,200
社債利息 400 社債発行差金 5,800
ちなみに買入償還時に10/1から10/31の1か月分の利息(400,000円×1.2%×1/12=400円)は、有価証券として社債を購入する場合の端数利息と同じ内容です。
社債発行差金の5,800円は400,000円の社債に関する社債発行差金残高ですから、400,000円分の社債が償還されれば、これに関する社債発行差金残高は消去されます。
社債発行差金の償却
(借方) 社債発行差金償却 5,600 (貸方) 社債発行差金 5,600
ここで検証しておきましょう。
決算整理前残高試算表の社債発行差金の金額は19,500円です。この金額から、償還分の5,800円と償却分の5,600円を引きますと、8,100円になり、600,000円分の社債発行差金の残高に図を見ますと一致しています。
未払社債利息の処理
未払社債利息は、600,000円に対する利息の10/1から12/31の3か月分になります。
600,000円×1.2%×3/12=1,800円。
(借方) 社債利息 1,800 (貸方) 未払社債利息 1,800
ここでも検証しておきましょう。
図から、1年間の利息を計算してみましょう。
600,000円は1年分 600,000円×1.2%=7,200円
400,000円は10か月分 400,000円×1.2%×10/12=4,000円。合計11,200円となります。
決算整理前の社債利息9,000円+400円+1,800円=11,200円
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